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2019.07.28 Sunday

『だまし絵のオダリスク』   第19回

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      ベルゲンの顔を見つめる槙村の目が鋭くなった。ベルゲンが語り続けた。
    「今年に入ってからソ連がNKVD(内務人民委員部)のサボタージュ専門の特殊工作員の一団をトルコに送り込んだ形跡があります。NKVDはその残虐な手法で有名な組織で、スペイン内戦中にバルセロナで暗躍し、反スターリンを標榜するトロツキー派のマルクス主義統一労働者党(POUM)の指導者を誘拐して拷問かけ、さらには生きながら彼の生皮をはいだことがあります。マルシュアスの生皮をはいだギリシャ神話のアポロンの如くです。今回そのNKVD特殊工作員たちを率いているのが暗号名「ナウモフ」という凄腕の男です。去年、トロツキー暗殺計画実行のために、スターリンがメキシコに送り込んだといわれている男です。1920年代から中国、イスタンブール、スペイン、パリと渡り歩いてスターリンのために汚れ仕事を引き受けてきました。田川さんを殺害するために送りこまれたわけではなく、なにか大掛かりな破壊工作にとりかかっている疑いがあります。彼らにとって田川さんとあのチチェキとかいうトルコ女性を殺すなどたやすい仕事でしょうね」
    「田川が書いた報告書やメモや日記を見ましたが、ソ連極秘情報を手に入れたことをほのめかすような記述はどこにもなかった。ベルゲン中佐、ソ連が田川を殺害しなくてはならない理由が不透明ですね」
    槙村が突っ込んだ。
    「理由が不透明では根拠不明の憶測にすぎませんな」
    そう言ってベルゲンは新しい煙草に火をつけた。
    「あのチチェキという女性と関わりのあるイギリスのジャーナリストのピーター・ケーブルが昨年秋、フォン・パーペン大使へのインタビューを申し込んできたことがありました。インタビューに応じるまえに、彼のことを調べてみると、ピーター・ケーブルはイギリス情報部のエージェントであるが、同時にソ連とも通じており、時にはトルコ情報部とも取引をしていることがわかった。チチェキは彼の情報収集係りだった。田川さんとチチェキが殺害された3月上旬、ピーター・ケーブルがペラのあやしげなバーでおかまといちゃついているのをトルコ情報部のエージェントが目撃していました。そのエージェントは金でアプヴェールにも情報を横流ししている男です。彼の目撃談からそのおかまは、NKVDが送り込んできた特殊工作班員の1人で通称「ナターシャ」という女装癖がある男だとわかった。話の中身は不明でしたが、ともあれ、ピーター・ケーブルとNKVDはどこかでつながっているようです。ピーター・ケーブルがふとしたことで、機密情報をチチェキに知られ、それをチチェキが田川さんに知らせた。そこで、ピーター・ケーブルが、ナターシャに2人の始末をたのんだ」
    「ベルゲン中佐、あなたは才能がおありだ。小説を書かれるといい」
    槙村はイケメン・メフメトに言われたのとそっくり同じセリフをベルゲンに言った。


      

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